No.2261,760
「会社の利益はいくら出たか?」
これは経営にとって最も関心の高いことの一つですよね。
決算書を見る際も、ついつい損益計算書の一番下にある
「当期純利益」に目が行く、という方も多いのではないでしょうか。
もちろん、当期純利益は会社の事業がどれだけ儲かったかを示す
非常に重要な指標です。
しかし、実はそれだけでは会社の財務状況の
「すべて」を捉えきれていない可能性があるのをご存知でしょうか?
今回は、ちょっと聞き慣れないかもしれませんが、
会社の「本当の体力」や「包括的な経営成果」を理解するために役立つ
「包括利益」という考え方について、
分かりやすくお話ししたいと思います。
そして、それがなぜ経営判断に役立つのかを見ていきましょう。
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ITに詳しくない中小企業に寄り添う
竹内美紀です。
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利益だけじゃない? 「包括利益」って何だろう?
会計の世界では、「当期純利益」のほかに
「包括利益」
という概念があります。
包括利益とは、簡単に言うと、
「会社の持っているお金や財産(純資産)が、この1年間でどれだけ増えたか? (ただし、社長がお金をポケットマネーから会社に入れたり、会社から配当を取ったりした分は除く)」
という変動の総額を示すものです。
「いやいや、純資産の増減は利益と一致するんじゃないの?」
と思われるかもしれません。
基本的にはその通りなのですが、
そうではない「例外」があるのです。
それが
「その他の包括利益」
と呼ばれる項目です。
これは、以下のような性質を持つ損益で、
発生した時点では「当期純利益」には含めず、
直接会社の純資産(資本の部分)に
プラスマイナスされるものです。
例えば、
- 持っている株などの価値が変動したときの評価損益(ただし、すぐに売買しない目的のもの)
- 海外との取引や海外子会社を持つ場合に生じる「為替レートの変動による差額」
- 退職金の積立金に関する会計上の調整額
などがあります。
これらの項目は、まだ「絵に描いた餅」のような
未実現の損益だったり、
最終的に会社の損益になるまで時間がかかったりするものなので、
一旦当期純利益とは別に扱われるのです。
だから、包括利益は以下の計算式で表されます。
包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益
つまり、包括利益は、当期純利益に
「その他の包括利益」を加えることで、
会社の活動による「純資産の総合的な増減」を示しているのです。
純利益と純資産の意外な関係 ~ クリーンサープラス関係
少し専門的になりますが、会計には
「クリーンサープラス関係」
という基本的な考え方があります。
これは、
「会社の利益の合計額は、株主との取引(増資や配当)を除いた純資産の増加額と一致するはずだ」
というものです。
昔の会計基準では、ほとんどの損益が損益計算書を通って
当期純利益に集約されていたので、
「当期純利益 = 純資産の増加額(株主取引除く)」
という関係が比較的きれいに成り立っていました。
しかし、「その他の包括利益」が登場したことで、
当期純利益だけでは純資産の増加額を完全に
説明できなくなりました。
なぜなら、その他の包括利益は当期純利益を通らずに
純資産を直接増減させるからです。
ここで包括利益が登場します。
包括利益を使えば、
包括利益 = 純資産の増加額(株主取引除く)
という関係が成り立ちます。
これを
「包括利益に関するクリーンサープラス関係」
と呼びます。
これはつまり、
「会社の利益獲得活動が、最終的に会社の財産(純資産)をどれだけ増やしたか」
という、より大きな視点での成果を示しているのです。
当期純利益は「フロー(事業の成果)」、
純資産は「ストック(会社の財産)」を表しますが、
包括利益はまさにその「フロー」が「ストック」に
どう繋がるかを示していると言えます。
一旦避けても、いつか通る道? ~ リサイクリング
「その他の包括利益」として一旦当期純利益を迂回した項目は、
ずっとそのまま純資産に置かれているわけではありません。
多くの「その他の包括利益」項目は、
将来、関連する資産を売却したり、
取引が完了したりした際に、再び損益計算書に戻ってきて、
その期の「当期純利益」の構成要素として計上されます。
このプロセスを
「リサイクリング(組替調整)」
と呼びます。
例えば、持っている株の価値が上がって
「その他の包括利益」に計上していたとします。
その株を実際に売却した期には、
過去に「その他の包括利益」に計上した評価益が、
「有価証券売却益」などとして
当期の損益計算書に振り替えられるのです。
これは、
「まだ実現していない損益は一旦分けておくけれど、
最終的に実現して会社の儲けや損失になったときには、
きちんとその期の損益計算書に載せましょう」
という考え方に基づいています。
これにより、資産の購入から売却まで、
その資産に関する損益の「累計額」が、
最終的には損益計算書に反映されることになります。
中小企業経営者が「包括利益」を知っておくべき理由
「うちは上場企業じゃないし、そんな複雑な会計は関係ないよ」
と思われるかもしれません。
確かに、大企業ほど厳密な包括利益の開示義務がない場合もあります。
しかし、包括利益の考え方自体は、
会社の「本当の姿」を理解し、
より良い経営判断を行う上で非常に役立ちます。
- 会社の「本当の体力」が見える: 当期純利益が黒字でも、為替レートの大幅な変動などで「その他の包括利益」が大きくマイナスになり、包括利益が赤字になることもあります。これは、事業自体はうまくいっているが、会社の保有資産の価値が全体として目減りしていることを意味し、会社の「体力」が低下しているサインかもしれません。逆に、当期純利益が厳しくても、その他の包括利益で純資産が増えているなら、将来に向けた良い兆候と捉えることもできます。
- 潜むリスクに気づける: 「その他の包括利益」の金額の変動は、会社がどのようなリスク(為替リスク、株価変動リスクなど)に晒されているかを示唆します。ここに大きな変動がある場合は、その背後にあるリスク要因を把握し、対策を検討するきっかけになります。
- 金融機関や外部への説明力向上: 銀行などからの融資を受ける際や、将来的に事業承継やM&Aを検討する際に、会社の財務状況を説明する場面があります。当期純利益だけでなく、純資産の変動要因(=包括利益)を包括的に説明できると、会社の財務の安定性や経営の透明性をより正確に伝えることができます。
- 将来の損益予測に役立つ可能性: リサイクリングされるOCI項目は、将来の損益計算書に影響を与えます。例えば、多額の為替換算調整勘定が純資産に計上されている海外子会社を売却する際には、その累積額が売却損益に影響することを事前に把握できます。
まとめ
当期純利益は経営の最重要指標の一つですが、
会社の財務状況全体を理解するには十分ではありません。
包括利益という視点を持つことで、
事業活動による利益だけでなく、
「その他の包括利益」による純資産の変動も含めた、
会社の「総合的な経営成果」や「本当の体力」が見えてきます。
もし、決算書の純資産の部に
「その他の包括利益累計額」
といった項目がある、
あるいは海外取引や有価証券投資などを行っている場合は、
その金額の増減にもぜひ目を向けてみてください。
難しく聞こえるかもしれませんが、
「当期純利益 + その他の純資産を増減させる特別な項目 = 包括利益(会社の財産の本当の増減)」
というイメージで捉えれば、
会社の全体像をより深く理解できるはずです。
会社の持続的な成長のためにも、
ぜひ包括利益の視点を経営に取り入れてみてください。
ご自身の会社の決算書で分からない点があれば、
顧問税理士や会計士に質問してくださいね。
想いが伝わり、成果があがる
そんな仕組みを作るお手伝いをさせてください。
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